精確・迅速・激烈

2027年1月までの日々

【読了】自由市場・最小国家・社会的寛容 - 『リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義』渡辺靖

以前読んだピーター・ティールについての本で、生き方としての「リバタリアニズム」に興味を持って、聖典であるアイン・ランドの小説を買ってみたものの、あまりの分厚さに読むのを躊躇してしまい、そのままにしていたのだが、中公新書からよさそうな本が出たので、まずは取っ掛かりとして。

カタカナの固有名詞が大量に出てくるので読みにくいが、「リバタリアニズム」とはなにか、そして今どうなっているのかを概観するには好適な一冊だった。アイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』『水源』はもちろん、コーク兄弟に関してなど、今後の読書計画にも影響を受けた。

書影とAmazonリンク

f:id:KCYS:20190214093843j:plain

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

目次

第1章 リバタリアン・コミュニティ探訪
第2章 現代アメリカにおけるリバタリアニズムの影響力
第3章 リバタリアニズムの思想的系譜と論争
第4章 「アメリカ」をめぐるリバタリアンの攻防
第5章 リバタリアニズムの拡散と壁

引用

9ページ

周知の通り、合衆国憲法修正第二条(一七九一年成立)は、国家権力が暴走して市民の自由や権利を抑圧する事態に陥った場合、市民が武装して不正な国家と戦って転覆させる抵抗権(革命権)を含意している。「銃規制は政府の圧政の象徴。私たちはそれに抗っているのです」とのこと。

14ページ

「政府は自由にとっての障壁」と見なすリバタリアンと「政府は自由のための手段」と見なすリベラル派の意識の裂け目はあまりに大きい。

20ページ

MIT卒のリバタリアンには、かのコーク兄弟もいる。総合企業コーク・インンダストリーズの最高経営責任者(CEO、チャールズ)ならびに副社長(弟デヴィッド)で、『フォーブス』誌の世界長者番付トップ10ランキングの常連。その絶大な資金力を背景に、官僚支配や重税、過剰福祉、金融統制に抗う組織や運動を支えてきた。

51ページ

通常、私たちは「市民のために」という観点から政治や社会を語るが、ランドはその逆。アメリカの実業家や科学者、芸術家の優れた才能や努力が寄生的な「市民のせいで」蝕まれていると批判する。「アトラス」とはギリシャ神話に登場する、天球を両肩で支える巨人を指す。巨人が肩をすくめたら世界はどうなるのか……。

52ページ

しかし、個人主義・合理主義・資本主義を融合した「オブジェクティビズム」(客観主義)の思想を紡ぎだし、小説を通して表現し、自ら実践し続けた姿は、世代を超えて市井の人々の共感を得ている。

55ページ

「ランドは自らをリバタリアンとは見なしませんでした。そういう集合的カテゴリーに括られることを嫌ったのです」

61ページ

要するに、リバタリアンといっても内実は既存のイデオロギー分類では上手く整理できないほど多様だということだ。自由市場・最小国家・社会的寛容を通奏低音としつつも、個々人がそれぞれにリバタリアニズムを解釈している。

78・79ページ

日本の話は耳が痛い。「規制大国」「最も成功した社会主義国」「アベノミクスの本質はケインズ主義」「道徳教育まで政府主導」「公文書改竄」……。私が出会った多くのリバタリアンから揶揄された。

ノーラン・チャート、82ページ

f:id:KCYS:20190214100021p:plain

102ページ

仮に正しい目的を持った貧困救済事業であっても、政府による事業には法案を制定した議員の自己利益が埋め込まれている場合が多い。そして、議員に対して強い影響力を持つのは、往々にして、財力や政治力のある企業や利益団体であり、貧しく弱きものではない……。

170ページ

バルマー氏によると、リバタリアニズムが急速に浸透しているのは中南米だという。「アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、チリ、ホンジュラス……。軍事政権や左翼政権のもとで腐敗や貧困が悪化しました。政府への不満が強く、自由を求める声が強いです」。その一方、「ハンガリー、ポーランド、チェコ、ウクライナなどの東欧では、権威主義体制や右派ナショナリストが擡頭するなど、自由への逆風が吹いています」と危惧する。

リベルランド、178ページ〜

近年、リバタリアンのみならず、各国の主要メディアからも注目を集めているのは「リベルランド自由共和国」(Free Republic of Liberland)の”建国”だ。

f:id:KCYS:20190214102838p:plain

191ページ

そもそもリバタリアンは、「国際秩序」の基本単位をなす「国家」に対して懐疑的である点はこれまで繰り返してきた通りである。リバタリアンにとっては「国民」よりも「個人」が先にくる。国家という制度に内在する強制性(マックス・ウェーバーのいうう「暴力」)そのものを否定する「無政府資本主義』(アナルコ・キャピタリズム)を唱えるリバタリアンもいる。

199ページ

さらに言えば、ヨーロッパ流の「保守主義」は歴史的に貴族や大地主などエリートを中心とする身分制度に基づいているが、占領政策を経た戦後の日本にそうした厳然たるエリートの影響力は希薄だ。それゆえ「保守」といっても愛子奥心に訴える以外の説得力が乏しく、「リベラル」も「反・保守」である以上の訴求力に欠く。

ヨーロッパもアメリカも「自由」という価値をめぐり政治論争が交わされてきた過去がある。そしてそれは現在進行形である。

それに比べると、日本の「保守」と「リベラル」は表層的な印象を拭えない。

リンク

Amazonリンク

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

日本アイン・ランド協会のウェブサイトと書籍

水源―The Fountainhead

水源―The Fountainhead

肩をすくめるアトラス 第一部

肩をすくめるアトラス 第一部

  • 作者: アイン・ランド,Ayn Rand,,翻訳 脇坂あゆみ,デザイン 中三川基,脇坂あゆみ
  • 出版社/メーカー: アトランティス
  • 発売日: 2014/12/15
  • メディア: 文庫
  • この商品を含むブログを見る
肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一

肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一

  • 作者: アイン・ランド,Ayn Rand,,デザイン中三川基,岡本成生,脇坂あゆみ
  • 出版社/メーカー: アトランティス
  • 発売日: 2014/12/22
  • メディア: 文庫
  • この商品を含むブログを見る
われら生きるもの

われら生きるもの

コーク兄弟関連

3冊とも購入済み。

ダーク・マネー

ダーク・マネー

アメリカの真の支配者 コーク一族

アメリカの真の支配者 コーク一族

市場ベースの経営 ――価値創造企業コーク・インダストリーズの真実 (ウィザードブックシリーズ)

市場ベースの経営 ――価値創造企業コーク・インダストリーズの真実 (ウィザードブックシリーズ)