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2027年1月までの日々

クレジットカードの手数料ビジネスが経済産業省の資料で丸裸にされている件

「FinTech/キャッシュレス化」会合の資料

首相官邸ホームページを眺めていたら、今年の10月24日に開催された「FinTech/キャッシュレス化」という会合の資料が目に入った。個人的に「キャッシュレス」大賛成なので、配布資料をなんとなく眺めていたら、とても興味深いスライドがあったので、記録として。全ての資料がPDFで公開されているので、誰でも閲読可能。


「FinTech/キャッシュレス化」会合は、首相官邸下に置かれた日本経済再生本部で運営されている未来投資会議のうち、、内閣官房日本経済再生総合事務局が、議題に関して識見を有するアドバイザーを招聘して議論する参観協議会の一つで、第1回が10月24日、第2回が11月12日に開催されている。書いてて頭が痛くなった。ツリーにすると以下のような感じか。

首相官邸 > 日本経済再生本部 > 未来投資会議 > 産官協議会 > FinTech/キャッシュレス化

メルカリや LINE PAY やマネーフォワード、Origami あたりが呼ばれている。


俺が気に入ったのが経済産業省が提出したスライドの以下のページ。経済産業省はキャッシュレス推進の音頭を取っている省庁で、かつクレジットカードのショッピング機能の監督官庁。要するにクレジットカードでのキャッシュレス決済の親分。ちなみにキャッシング機能の監督官庁は、当たり前だけど金融庁。

未来投資会議 産官協議会「FinTech/キャッシュレス化」会合(第1回)経済産業省 提出資料

未来投資会議 産官協議会 「FinTech/キャッシュレス化」会合(第1回)経済産業省 提出資料

経済産業省が、クレジットカードのビジネスモデルというか、手数料ビジネスの詳細を完全に丸裸にしているスライド。例えば俺が居酒屋で10,000円飲み食いしてクレジットカードで支払った場合、誰にいくら金が入るのかを、1円単位で説明している。以下で、よくわからない用語を調べながら、解読していく。

登場人物

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まず、登場人物の確認から。

カード利用者

これは説明不要。日々カードを利用する俺たち。

加盟店(商店等)

これも説明不要。店頭に端末を置いて、クレジットカードでの支払いを受けてくれる商店。居酒屋だったり、コンビニだったり、UNIQLO もアップルストアも。

アクワイアラ(カード会社等)

ここらへんから耳慣れない単語が出てくるが、アクワイアラ(Acquirer)は、クレジットカードの加盟店の獲得と管理をする会社のこと。端末を置いて加盟店としてクレジットカードを導入しませんかと、商店などに営業をかける会社。そもそも消費者とは直接接点のない登場人物。

イシュア(カード会社等)

イシュア(Issuer)はクレジットカードの発行会社のこと。クレジットカードを作りたいなと思った時に申し込む会社。三井住友カード・楽天カード・イオンカード・セゾンカード等々、百花繚乱。ポイントの付与や会員向けのサービスの主体もこちら。

国際ブランド

クレジットカードの決済機関のこと。JCB・VISA・MasterCard・American EXpress(アメリカンエキスプレス・アメックス)・DinnersClub に Discover と中国の銀聯を加えて7つ。それぞれが国境を越えた決済システムを構築しており、イシュアはこれら国際ブランドと提携するから、自社のカードを世界中で使うことができる。

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以上が登場人物。アクワイアラとイシュアと国際ブランドを兼ねる企業もあり、JCB なんかは全部やっちゃう。ただ、ここでは話を簡単にするために、それぞれが別の企業・機関として手数料の動きを確認していく。

居酒屋で飲み食いして10,000円をクレカで支払い

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図では手数料の業界平均を3.24%としているので、これを採用。居酒屋で10,000円飲み食いして、クレジットカードで支払う場合で検討する。

加盟店手数料A(イシュア分+アクワイアラ分)・3.24%

手数料として3.24%引かれる。よって、居酒屋の売り上げの実質は10,000-324=9,676円

ブランドライセンスフィー/ネットワーク利用料・0.05%

アクワイアラとイシュアがそれぞれ、国際ブランドに上納金として0.05%。ここではそれぞれ5円なので、国際ブランドは10,000円の支払いに対して10円徴収。

加盟店手数料B(イシュア分)・2.3%

結局ここが一番でかいのだが、アクワイアラがイシュアに支払う手数料が、業界平均で2.3%で230円。とあるキャッシュレスの勉強会で聞いた話だと、ここが一番変動がある部分で、一般的に信用が低い業界だとこのパーセンテージが跳ね上がる。福岡の中洲の飲食店なんかだと、手数料が10%近い店もあるらしいのだが、それはこの部分が大きくなっている。

また妙な話だが、取引額の大きな加盟店についても、ここが平均より大きなるなる傾向があるらしく、なぜかというと、うちの看板で商売して太い客掴んどるんやから、みかじめ多めによこさんかい、われこら、という理屈らしい。

端末利用料・取引1回ごとに5円

アクワイアラが設置・管理した端末での取引なので、取引ごとにイシュアからアクワイアラに5円。

ネットワーク接続料・取引1回ごとに4円

取引ごとにアクワイアラは、「カードオーソリ・売上データプロセシングネットワーク(CAFIS、JCN等)」に接続料として4円支払う。各プレイヤーをネットワークで結び、取引や決済を処理するシステムの利用・接続料。

まとめ

以上をざっくりまとめると以下となる。

居酒屋で10,000円支払い 金額 端末利用料と
ネットワーク接続料を反映
加盟店(居酒屋) 96.76% 9,676円 9,676円
アクワイアラ 0.89% 89円 90円
イシュア 2.25% 225円 220円
国際ブランド 0.1% 10円 10円


図表では、アクワイアラがこの90円をさらにどう使うか、イシュアがこの220円をさらどう使うかが、より詳細に説明されているので、興味ある方は確認したらいいと思う。

例えば、イシュアが提供するポイントや会員向けサービスの原資はこの220円と強いカードの年会費から出ており、220円のうちの約10円がこれらに当てられているのがわかる。

クレジットカードの普及は「加盟店手数料B」次第

ということで、経済産業省が安倍首相や麻生大臣の前で丸裸にしたクレジットカードのビジネスモデルをざっくり確認してみた。知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない。例えばブログ『クレジットカードの読みもの』(id:cardmics)あたりの読者にとっては常識かもしれないし、俺も自分で商売をしていてクレジットカードで支払われるたびに3%引かれている身なので、ある程度は把握していたが、細かい数字まで並べた資料を目にしたのは初めてだったので、個人的には色々と学びが多かった。


小さな飲食店や小売、サービス業がクレジットカードを導入しない、あるいは、規約違反だが1万円以下の支払いはお断りや、カード払い手数料を取りたがるのは、全てこの手数料がしんどいから。ここら辺の商売は利益率が大体一桁、それも0〜5%ぐらいのところがほどんど。で、カードを使われて3.24%持ってかれたら、売るだけで赤字という、商売をやっている意味がない状態に陥ってしまう。自営業者としては、その悲しみはよくわかる。


カードが使える店を今以上に増やして、カード払いをもっと一般的にしたいのなら、手数料を下げて加盟店を増やすしかないし、政府が来年の消費増税の負担軽減策として企んでいる、カード決済を通じたポイント還元実現のために下げろと迫っているのは、このイシュアが徴収する手数料(図では加盟店手数料B)が本丸。ただ、ここはやっぱりそう簡単には下がらない。ポイント付けないといけないし、キャンペーンもしないといけないし。

これらを踏まえた上で、例えば朝日新聞の以下の記事を読んでみると、VISAが「そんなの関係ない」と突っぱねる理由もよくわかる。

しかし、カード会社はシステムの維持・運営費や、海外でも使える「VISA(ビザ)」などのブランドや決済ネットワークの使用料を負担している。政府の要請を受け入れれば、相対的にコスト負担は増す。
使用料が下がればカード会社の負担は和らぐが、朝日新聞が国際ブランド最大手のビザ・ワールドワイドに尋ねたところ、同社の広報担当者はメールで「フィー(使用料)については、加盟店手数料とは関係がない」とし、引き下げに否定的な姿勢を示した。


そりゃそうだわ。そもそも VISA は全体の0.05%しか徴収してないんだから。朝日新聞の記者も、この図表を先に見てたら、わざわざ VISA に電話しなくても済んだのに。

首相官邸ホームページは行政の方向性を確認するには便利

首相官邸ホームページ、資料も充実しているし、中の人たちがどんな資料を見て意思決定しているのかが、如実に出てるので、暇なときに眺めると面白い。また、各省庁がどのようにナワバリ争いをしてるのかも、垣間見ることができる。


例えば、経済産業省はキャッシュレス化を何がなんでも進めていきたいから、あらゆる理屈をこねて理論武装するのに対して、財務省が11月9日開催の金融審議会「金融制度スタディ・グループ」で「経済産業省は日本のキャッシュレス化が遅れていると騒ぐが、すでに日本は給与の振込や公共料金の支払いなどでキャッシュレス化が完了しており、その金額比率は実に50%を超えるのであります」という謎理屈をぶつけてきたりと、楽しそう。

金融審議会「金融制度スタディ・グループ」(平成30事務年度第3回)議事次第:金融庁

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